3行でわかるこの記事
- 何が起きた? デジタル庁が日本企業が開発した大規模言語モデル(LLM)7つを選定し、政府共通の生成AI環境「源内(げんない)」での試用評価を進めています
- 重要なポイント 2026年5月から全府省庁の約18万人の職員を対象にした大規模実証実験が始まり、2027年度以降に優れたモデルが政府の「ガバメントAI」として正式採用される可能性があります
- なぜ注目? 海外AI一択ではなく「国産AI」を政府が本気で育てようとしている動きで、日本のAI産業全体に大きな影響を与えるからです
はじめに
「日本のAIって、海外に比べてどうなの?」そう思う方も多いかもしれません。
ChatGPT(アメリカ)、Claude(アメリカ)、Gemini(アメリカ)。普段私たちが使うAIは、ほとんどが海外製です。「日本のAIってあるの?」と感じるのも無理はありません。
でも実は今、日本政府が「国産AI」を本気で育てようとしています。2026年3月6日、デジタル庁は15件の応募の中から7つの国産AIモデルを選定し、政府共通のAI環境「源内」で試用評価を開始すると発表しました。
この記事では、次の3つの疑問に答えていきます。
- 「源内」って何?なぜ国産AIにこだわるの?
- 選ばれた7つのAIモデルはどんなもの?
- 私たちの生活に関係あるの?
ひとことで言うと
デジタル庁が日本企業の開発したAIモデル7つを「源内」というAI共用環境に組み込み、18万人の公務員が実際に使って評価する計画です。海外AIに依存しない「日本独自のAI基盤」を作ろうという国家規模の取り組みが動き出しています。
「源内」って何?行政AI化のための共用プラットフォーム
「源内(げんない)」は、デジタル庁が運営する政府共通の生成AI環境です。名前の由来は、江戸時代の発明家であり学者でもあった平賀源内。日本のイノベーションの象徴として名付けられたのかもしれません。
源内は2025年5月から運用が始まっており、政府の職員がAIを安全に使えるプラットフォームとして設計されています。
ポイントは、「機密性2情報」と呼ばれる行政上の重要データも扱える高いセキュリティ水準を持っていること。海外のクラウドAIサービスでは対応が難しい、政府ならではの要件に応える仕組みになっています。
たとえるなら、源内は「政府専用のAI研究所」のようなもの。外の一般的なAIサービスとは違い、政府の機密情報を安心して扱えるように特別に設計された環境です。
選ばれた7つの国産AIモデル
15件の応募から書類審査と評価テストを経て、以下の7モデルが選定されました。
| 企業・団体 | モデル名 | 特徴 |
|---|---|---|
| NTTデータ | tsuzumi 2 | NTTグループの日本語に強い大規模言語モデル |
| カスタマークラウド | CC Gov-LLM | 行政業務に特化した設計 |
| KDDI・ELYZA共同 | Llama-3.1-ELYZA-JP-70B | Meta社のLlamaを日本語に最適化 |
| ソフトバンク | Sarashina2 mini | 軽量かつ高性能な日本語モデル |
| NEC | cotomi v3 | NECの企業向けAI技術の蓄積を活用 |
| 富士通 | Takane 32B | 独自の量子化技術によるAI軽量化と高精度を両立 |
| Preferred Networks | PLaMo 2.0 Prime | 深層学習研究の国内最先端企業によるモデル |
日本の大手IT企業やAI専門企業が名を連ねています。NTT、KDDI、ソフトバンクといった通信大手から、NEC、富士通といった老舗IT企業、そしてPreferred Networksのようなスタートアップまで、まさに「日本AIのオールスターチーム」と言える顔ぶれです。
なぜ「国産AI」にこだわるのか
「ChatGPTやClaudeが優秀なら、それを使えばいいのでは?」。この疑問はもっともです。
国産AIにこだわる理由は、大きく3つあります。
理由① 安全保障上のリスク。 政府の機密情報を海外企業のAIに処理させることには、データの管理先が海外になるというリスクがあります。国産AIなら、データの管理を国内で完結できます。
理由② 日本語への最適化。 海外製のAIは英語を基本に作られており、日本語の微妙なニュアンスや行政特有の表現に弱いことがあります。国産AIなら、日本語の文書処理や行政用語を正確に理解できるよう最適化できます。
理由③ 日本のAI産業の育成。 政府がまとまった規模で国産AIを使うことで、日本のAI企業に「実績」と「市場」が生まれます。海外勢一強のAI市場で、日本企業が存在感を示すきっかけになるかもしれません。
18万人の実証実験、どう進む?
デジタル庁が描いているスケジュールは以下の通りです。
2026年5月: 全府省庁の約18万人の職員を対象にした大規模な実証実験を開始
2026年8月頃: 国産LLMの本格的な試用を開始
2027年1月頃: 評価結果の一部を公表
2027年度以降: 優れたモデルを政府が有償調達する「ガバメントAI」として正式採用
先日のMe-Moon記事でご紹介した日本政府の「ガバメントAI」構想では、政府のAI活用の大きな方向性をお伝えしました。今回の「源内」7モデル選定は、その構想が具体的な「選定」と「実証」のフェーズに進んだことを意味しています。
私たちの暮らしにどんな影響がある?
「政府のAIの話でしょ?自分には関係ないのでは?」と思うかもしれません。
でも実は、この取り組みは私たちの暮らしにも影響する可能性があります。
影響① 行政手続きがスムーズになるかもしれない。 確定申告、引っ越しの届出、パスポートの申請。こうした行政手続きの裏側でAIが書類のチェックや情報整理を担うようになれば、窓口での待ち時間が短くなる可能性があります。
影響② 日本語に強いAIが増える。 政府が国産AIを育てることで、日本語の処理に優れたAIモデルの開発が加速します。その技術は、民間企業のサービスにも波及するかもしれません。
影響③ 「日本のAI力」が世界で評価される。 政府という巨大なユーザーが国産AIを使い、その実績が世界に示されることで、日本のAI技術への信頼と評価が高まる可能性があります。
用語ミニ解説
- 大規模言語モデル(LLM): 膨大な量のテキストデータを学習して、人間のように自然な文章を生成できるAIの仕組み。ChatGPTやClaudeの頭脳にあたる部分(「ものすごく本を読んだAIの脳」のイメージ)
- デジタル庁: 2021年に発足した日本政府の組織。行政のデジタル化やデータ活用を推進する「日本のIT化の司令塔」(「政府のDX推進本部」のイメージ)
- ガバメントAI: 政府業務で正式に採用されるAIの総称。今回の「源内」はその実験場という位置づけ(「政府公認のAIアシスタント」のイメージ)
- 機密性2情報: 行政機関が扱う情報のうち、中程度の機密レベルにあるデータ。不特定多数には公開されないが、最高機密ほどではない情報(「社外秘レベルの政府文書」のイメージ)
Me-Moon編集後記 🌙
7つの国産AIモデルの名前を見ていると、「tsuzumi」「Sarashina」「Takane」「cotomi」と、どこか日本らしさを感じる名前が並んでいて、なんだかうれしくなりました。
海外製AIが圧倒的に強い今の状況で、「わざわざ国産を育てる意味があるの?」と思う声もあるかもしれません。でも、原材料を全部輸入に頼っていたらどうなるか。食料も、エネルギーも、そしてAIも、「自分たちで作れる選択肢を持つ」ことには大きな意味があるのだと思います。
18万人の公務員が実際に使って評価するという規模感にも驚きました。1年後、どのモデルが「政府のAI」に選ばれるのか、今から楽しみです🌙
参考リンク
- デジタル庁、政府AI基盤「源内」で国産LLMを試用へ 7モデルを選定、全府省庁39機関・約18万人規模で実証 — Ledge.ai, 2026年3月
- デジタル庁「ガバメントAI」に関する取り組み — デジタル庁公式サイト
