ロボットが「人の不安」を感じ取る?NECの”フィジカルAI”が変える人とロボットの距離感

3行でわかるこの記事

  • 何が起きた? NECが、人の動きと心理状態を予測し、不安を感じさせないようにロボットを自律制御する「フィジカルAI」を世界で初めて開発しました
  • 重要なポイント 独自の「人間系世界モデル」が人の3D骨格情報からリアルタイムで不安度を推定し、ロボットの経路や速度を自動調整します
  • なぜ注目? ロボットが「効率だけ」ではなく「人の気持ち」を考えて動く時代がいよいよ始まろうとしているからです

はじめに

「ロボットと一緒に働くなんて、もう当たり前でしょ?」——そう思う方がいるかもしれません。しかし実は今、多くの物流倉庫や工場では、ロボットの走行エリアと人間の作業エリアを柵やテープで厳しく分けているのが現実です。

なぜなら、自律走行ロボットがすぐそばを通り過ぎるとき、人間は思わず身構えたり、不安を感じたりするから。技術的にはぶつからないとわかっていても、「怖い」と感じる感覚は理屈では消えません。

2026年3月12日、NECがこの問題に正面から挑む技術を発表しました。ロボットが人間の「不安の度合い」をリアルタイムで推定し、不安を高めないように自分の動きを変えてくれる——そんな「フィジカルAI」です。

この記事では、こんなことを解説していきます。

  • NECの「フィジカルAI」って何がスゴいの?
  • 人の不安をどうやって測るの?
  • 私たちの暮らしにどんな変化が起きるのか?

ひとことで言うと

NECが開発した「フィジカルAI」は、人の動きと不安の度合いをリアルタイムで読み取り、ロボットが人間を怖がらせないように走行経路や速度を自動調整する世界初の技術です。

「フィジカルAI」の正体——ロボットに「思いやり」を教える技術

まず「フィジカルAI」という言葉をかんたんに説明しましょう。

フィジカルAIとは、AIの知能を「現実世界のモノ」に載せて動かす技術のことです。チャットAI(ChatGPTなど)は「言葉の世界」で動きますが、フィジカルAIは「物理的(フィジカル)な世界」で動くAI。ロボットや自動運転車がその代表例です。

NECが今回開発したフィジカルAIの最大の特徴は、ロボットが人間の心理状態を理解しようとする点にあります。

たとえるなら、混雑した駅の改札前で、あなたのペースに合わせてスッと道を譲ってくれる「気づかいのできる人」のような存在。従来のロボットが「ぶつからなければOK」という発想だったのに対し、NECのフィジカルAIは「人が怖いと感じないか?」まで考えて動いてくれるのです。

人の不安を測る「人間系世界モデル」とは?

NECのフィジカルAIの頭脳にあたるのが、独自開発の「人間系世界モデル」です。このモデルは、2つの予測AIで構成されています。

予測AI① 人の動きを先読みする

1つ目のAIは、カメラで取得した人の3D骨格情報(骨格の位置や姿勢)をもとに、数秒後にその人がどこに移動し、どんな姿勢になるかを予測します。

3D骨格情報とは、人間の体を「棒人間」のように関節の点と線で表現したデータのこと。カメラに映った映像からリアルタイムで抽出できます。

予測AI② 不安の度合いを数値で推定する

2つ目のAIは、ロボットが近づくことで人がどれくらい不安を感じるかを数値(スコア)で推定します。

この不安推定AIがユニークなのは、開発の過程で実際に人間にアンケート調査を行ったデータをもとに学習している点です。ロボットが横を通り過ぎたときに「怖かったですか?」と聞き、その答えとロボットの走行データを紐づけてAIに学ばせたのです。

たとえるなら、「1,000人に『ロボットのどんな動きが怖い?』と聞いて回った結果を全部覚えているAI」のようなもの。その膨大な「怖さの記憶」をもとに、いま目の前にいる人の不安度をリアルタイムで推定してくれます。

ロボットはどう動きを変えるの?

2つの予測AIの情報を受け取ったロボットは、人の不安を高めないための最適な経路と速度を自動的に選びます。

具体的には、次のような判断を瞬時に行います。

  • 人との距離が近くなりすぎるルートを避ける
  • 人の正面から急接近する動きを控える
  • 人が振り向いた瞬間にロボットが目の前にいる状況を作らない
  • 不安スコアが高い場面では速度を落とす

これまでのロボットは「最短経路で目的地に向かう」のが基本でしたが、NECのフィジカルAIは「人間が安心できる経路で目的地に向かう」という発想に切り替えたのです。

なぜ今、この技術が必要なの?

NECがこの技術にこだわる背景には、物流・小売業界の深刻な人手不足があります。

日本では、倉庫作業員や店舗スタッフの確保がますます難しくなっています。自律走行ロボットの導入は避けられない流れですが、現状では「ロボット専用レーン」を設けたり、人間の作業エリアとロボットの走行エリアを完全に分離する必要があり、設備コストが大きな負担になっていました。

NECのフィジカルAIが実用化されれば、ロボット専用区画の設計が不要になり、人間とロボットが同じ空間で自然に共存できるようになります。これは導入コストの削減だけでなく、倉庫や店舗のレイアウトの柔軟性を大きく高めるメリットもあります。

NECは2027年度中の実用化を目指しています。

私たちの暮らしはどう変わるかもしれない?

「物流倉庫の話でしょ?」と思った方もいるかもしれません。でも実は、この技術は私たちの身近な場所にも広がる可能性があります。

場所① スーパーやホームセンター
先日ご紹介した富士通「Watomo」による小売業のAI化に加え、ロボットが商品を棚に補充する光景が増えていくかもしれません。そのとき、「ロボットが怖い」と感じるお客さんがいたら——NECのフィジカルAIがあれば、ロボットは自然と距離を取ってくれるのです。

場所② 病院や介護施設
患者さんや高齢者は、ロボットの急な動きに特に不安を感じやすいと言われています。フィジカルAIは、そうした繊細な環境での活用に大きなポテンシャルがあります。

場所③ オフィスビルや商業施設
清掃ロボットや配送ロボットがすでに稼働し始めていますが、エレベーター前やエスカレーター周辺での「人間との距離感」は課題の一つ。フィジカルAIはその解決策になり得ます。

用語ミニ解説

  • フィジカルAI: AIの知能を現実世界のロボットや機械に組み込み、物理的な環境の中で自律的に動かす技術。チャットAIが「言葉の世界」で動くのに対し、フィジカルAIは「モノの世界」で動く(「体を持ったAI」のイメージ)
  • 世界モデル: AIが「この状況でこうしたら、次はこうなるだろう」と予測するための内部シミュレーション能力。人間が頭の中で「シミュレーション」するのと似た仕組み(「AIの想像力」のイメージ)
  • 3D骨格情報: カメラの映像から人間の体の関節や姿勢をリアルタイムで検出し、立体的なデータとして表現したもの(「デジタルの棒人間」のイメージ)
  • 自律走行ロボット: 人間の指示なしに、自分でルートを判断して移動できるロボット。物流倉庫や商業施設で急速に普及が進んでいる(「自分で考えて歩くロボット」のイメージ)
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Me-Moon編集後記 🌙

「ロボットが人の不安を感じ取る」——このフレーズを見たとき、正直に言うと少しSFめいた印象を受けました。でも、NECが実際にアンケートで「どんなロボットの動きが怖い?」と調べ、その結果をAIに学ばせている、という開発プロセスを知って、とても人間味のあるアプローチだなと感じました。

考えてみれば、テクノロジーが本当に「すごい」のは、スペックの数字が大きいときではなく、人間の感情に寄り添えたとき。「ぶつからない」だけじゃなく「怖くない」を目指す——その発想の転換こそが、人とロボットの未来を切り拓くカギなのかもしれません。

ロボットと人間が柵なしで自然に共存する日が来たとき、ふと振り返って「あのとき始まった技術だったんだ」と思い出すのかもしれませんね🌙

参考リンク

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監修者

小宮 滉

コインチェック株式会社を経て、現在はGUILD株式会社および一般社団法人Web3人材マネジメント協会の代表理事を務める。

Web3・仮想通貨分野では、「NGG(NinjaGuild_Japan)」というコミュニティの運営や、「IVS Crypto THE DEMODAY」MetaMeトラックでの優勝など、多くの実績を有する。

また、AI・ブロックチェーン開発を強みとしたDXサービスを提供し、企業の成長を支援します。AI・ブロックチェーン技術との統合を通じて、DX体験をシームレスに実現し、ユーザーと企業の双方に新たな価値を創出することを目指して、開発支援やマーケティングを行っております。

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