3行でわかるこの記事
- 何が起きた? エイベックスの松浦勝人会長が、8月13日に始めたnoteの連載をほぼAIに任せていたと明かしました。
- 重要なポイント 本人がしたのはパスワードの入力くらいで、AIには自分の60年分のデータを渡したそうです。
- なぜ注目? 1週間で公開された4本が合計5万を超える「スキ」を集め、文章のうまさより元になる素材が大切なのでは、という声が出ています。
はじめに
「話したいことはある。でも、文章にするのが苦手」
スマホのメモアプリを開いたものの、最初の1行が浮かばず、そのまま閉じてしまう。そんな経験がある人もいるのではないでしょうか。
頭の中には、あの日の出来事も、そのとき考えたことも残っています。それなのに、いざ文章にしようとすると手が止まる。書き出しや文章の長さ、段落の分け方が気になり、本当に残したかった話まで出てこなくなることがあります。
その「書く作業」をほぼAIに任せ、1週間で5万を超える反応を集めたのが、エイベックスの松浦勝人会長です。
気になるのは、「ほぼほぼAI」とはどこまでを任せたのかということ。そして、4本で5万を超える「スキ」を集めた理由は、AIの文章力にあるのか、それともAIへ渡した60年分のデータにあるのかという点です。
さらに、松浦さんのような経歴がなくても、この話から取り入れられることはあるのでしょうか。AIを使った文章づくりを知らない人にもわかるように、順番に見ていきます。
ひとことで言うと
4本で5万を超える「スキ」が集まった連載で注目されたのは、AIの文章力だけではありません。むしろ、AIへ渡した60年分の経験に価値があるのではないか、という声が出ています。
1行目が書けずに閉じたメモ、あの下書きはどうなった?
メモを開いても指が止まってしまう。その理由は、書きたい中身より、文章の形に気を取られているからかもしれません。
どんな言葉から始めるのか。どのくらいの長さにするのか。段落をどこで分けるのか。話したい内容とは別の作業が先に立ちはだかり、考えているうちに画面を閉じてしまいます。
もし、文章の形を整えるところだけ誰かに任せられたら、下書きの作り方は変わります。最初から読みやすい文章にしようとせず、思い出したことをそのまま出せるからです。
松浦さんのnoteは、その作業をAIに任せた例として注目を集めました。
「松浦勝人の人生論」はどう作られた?入力したのはパスワードくらい
avex株式会社の代表取締役会長を務める松浦勝人さんは、2026年8月13日、noteで「松浦勝人の人生論」という連載を始めました。
1本目のタイトルは「100万円でも100億円でも、なくなる時は一瞬だ」。8月13日の15時48分に投稿され、書き出しは「僕にとってお金は、使うものだ。貯めるものじゃない。」という一文です。取得時点で、この1本には15,959件の「スキ」が付いています。
記事の内容とともに関心を集めたのが、その作り方でした。松浦さんはXで、次のように説明しています。
「1週間前、AIが僕の指令で、noteのアカウントをAIが自分で作って、最初の記事を自動投稿しました」
さらに、「冗談みたいですが、本当の話です。僕がやったのは、パスワードを入力したことくらい」とも書いています。どこまで本人が作業しているのかという問いへの答えは、「ほぼほぼAIがやってます」でした。
そこから1週間で公開された記事は4本。ITmediaによると、8月20日までに投稿された4本の「スキ」は合計5万以上です。J-CASTニュースも、フォロワーは2万人、「スキ」は累計5万超と伝えています。松浦さんがこの作り方を明かしたのは、8月中旬から下旬にかけてでした。
どのAIサービスを使ったのかは、報道では明らかになっていません。ただ、松浦さんがAIへ何を渡したのかは説明されています。
「僕の60年分のデータを入れたので、出てくるのは全部、本当にあった話です」
60年分のデータをどんな形で渡したのかまでは語られていません。わかっているのは、記事に登場する内容がAIの作り話ではなく、松浦さんが実際に経験したことだという点です。
5万の「スキ」を集めたのは、うまい文章? 渡した60年分のデータ?
松浦さんは、寄せられたコメントをすべて読んでいるそうです。そのなかで、40年前の貸しレコード店の客と再会したことも報告しています。
詳しい経緯までは説明されていません。それでも、この再会は、5万という数字とは別の角度から連載の特徴を伝えています。過去の出来事を文章として公開したことで、かつて同じ場所にいた人との接点が生まれたからです。
連載では、「お金の話」「僕には友達がいない」「貸しレコード屋の原点」「100億円払った苦い経験」といったテーマが扱われています。
どれも、外から調べた情報を並べるだけでは書けない話です。「僕には友達がいない」という実感も、貸しレコード屋の原点も、松浦さん本人の人生から出てきたもの。本人の説明どおりなら、記事に書かれているのはすべて実際にあった出来事です。
AIへ渡した60年分のデータから、こうした話が文章になって出てきました。
SNSでは、「60年の経験が強い」「今や書き手は問題ではなく、元になる一次情報の強さのほうが大事なのかも」といった声が出ています。
アゴラ言論プラットフォームに掲載された寄稿も、同じ方向からこの出来事を捉えています。文章を作る力がAIによって手に入りやすくなる一方、価値が高まるのは「その人にしか語れないこと」ではないか、という見方です。そこで挙げられているのが、「何を見るか。何を経験するか。何を面白いと思うか」という点でした。
文章を整えるAIは、松浦さんだけのものではありません。私たちも同じように使えます。同じ道具を使っても違いが生まれるとすれば、AIへ渡す素材のほうなのでしょう。少なくとも、読んだ人たちの反応は、その見方に近いようです。
AIを使って書いたとき、文章の中身がどう変わるのかは、以前の記事でも取り上げました。
書けない夜は、どう変わる?
話を、途中で閉じたメモに戻します。うまく文章にできない部分をAIが引き受けてくれるなら、メモの残し方も変わります。
たとえば、長く勤めた職場を辞めた日のこと。最後に机を拭いたときの手触りや、同僚からもらった言葉は覚えていても、それを最初から順序よく書けるとは限りません。起承転結のある文章にまとめようとした途端、面倒に感じることもあります。そうして手元に残るのは、途中で止まった箇条書きだけです。
ここで順番を入れ替えます。まずは、思い出したことを思い出した順に、話し言葉のまま並べる。何年目の出来事だったのか。誰がいたのか。自分は何を思ったのか。文章として整える作業は後ろへ回し、素材を出すことに集中します。
腕のいい料理人を家に呼べるようになった、と考えるとわかりやすいかもしれません。料理人の腕がどれほどよくても、冷蔵庫が空なら料理は作れません。反対に、素材が入っていれば、切り方や味付けを任せられます。
今回のnoteでいえば、料理人にあたるのがAIで、冷蔵庫の中身が60年分の記憶です。
読み手の側にも変化があります。先ほど触れた、40年前の貸しレコード店の客との再会もそのひとつです。誰かが過去の出来事を書き残さなければ、こうした接点は生まれません。
同じ町にいた人、同じ職場にいた人、同じ年に同じ番組を見ていた人。お互いに覚えていても、どちらも言葉にしなければ、思い出はすれ違ったままです。文章を残せる人が増えれば、再びつながる入り口も増えるのかもしれません。
一方で、変わらない部分もあります。冷蔵庫に何を入れるのかを決めるのは、今も自分です。
松浦さんがAIへ渡したのは、60年分の実際にあった話でした。AIが新しい出来事を作ったわけではありません。書く作業が軽くなっても、見ること、経験すること、面白いと感じることは自分の側に残ります。
特別な経歴がなくても始められる?
「自分には、貸しレコード屋の原点も100億円の話もない」と感じる人もいるでしょう。松浦さんの経験が大きく見えるほど、自分には書けることがないように思えてしまいます。
ただ、SNSの声で注目されているのは、「100億円」という金額の大きさだけではありません。その人にしか語れないことがあるかどうかです。
「何を見るか。何を経験するか。何を面白いと思うか」。ここに金額の桁は出てきません。
連載で扱われているテーマを振り返ると、「僕には友達がいない」という話もあります。「100億円払った苦い経験」と並んでいるのは、金額の大きさとは関係のない、本人の実感から生まれたテーマです。
もちろん、松浦さんが使ったAIサービスは公表されていません。そのため、同じ手順をそのまま再現することはできません。
それでも、AIへ渡す素材を残す作業なら、手元のメモアプリから始められます。新しい道具を用意するのではなく、まずは今日あったことを1行だけ書き留めてみる。最初から読みやすい文章にする必要はありません。
朝に目に入ったものや、昼に食べたもの、そのとき自分が感じたこと。何を書けばよいか迷ったら、今日いちばん気になったことだけでも構いません。
うまく見せようとせず、そのときの言葉で残しておけば、後から文章を作るための素材になります。形を整える作業は、後へ回せるようになりました。
「60年分」という言葉に圧倒される必要もありません。60年分の経験も、1日ずつ積み重なったものです。今夜残すメモの1行が、その最初の1日になります。
用語ミニ解説
- note: 松浦さんが「松浦勝人の人生論」を公開している投稿サービスです。
- スキ: noteの記事に寄せられる読者からの反応です。
- 一次情報: 本人が直接見たり、経験したりして得た情報のことです。今回の連載では、松浦さんの60年分の経験が元になっています。
- 生成AI: 指示や渡された情報をもとに、文章などを作るAIです。松浦さんは、noteのアカウント作成や最初の記事の自動投稿をAIに任せ、連載について「ほぼほぼAIがやってます」と説明しています。
Me-Moon編集後記 🌙
AIが文章を書けるようになったら、書く人はいらなくなるのか。そう考えてしまいますが、今回の連載から見えてきたのは、少し違う景色でした。
文章を整える作業をAIに任せても、何を経験し、何を覚えているのかは、その人の中に残ります。料理を任せられても、冷蔵庫へ素材を入れるところまでは代わってもらえません。
まずは今夜の1行から、自分だけの素材を貯めていきたいですね🌙
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参考リンク
- エイベックス松浦会長、noteの“バズり記事”を「ほぼAI」で作成 「僕の60年分のデータを入れた」 — ITmedia AI+, 2026-08-20
- 「冗談みたいですが、本当の話…こんなに読んでもらえるとは」 エイベックス松浦勝人会長がnoteを書かせた相手 — J-CASTニュース, 2026-08-20
- エイベックス松浦勝人会長「ほぼAI」noteの大反響が「創造性とは何か」を問い直す — アゴラ 言論プラットフォーム, 2026-08-20
- 100万円でも100億円でも、なくなる時は一瞬だ — note(松浦勝人), 2026-08-13
