黒電話を取ると、AIが「昨日の続きを聞かせてください」と言う

黒電話を取ると、AIが「昨日の続きを聞かせてください」と言う

3行でわかるこの記事

  • 何が起きた? 昭和のダイヤル式黒電話に対話AIを載せたコンセプトモデル「回想デンワ」が、8月19日から東京ビッグサイトで公開されます。
  • 重要なポイント 話す人の人生をあらかじめ学習しているので、2度目の通話は初対面ではなく前回の話の続きから始まります。
  • なぜ注目? 操作は受話器を取るだけで、スマホもアプリも設定も出てこないからです。

はじめに

「その話、前にも聞いたよ。」

実家に帰ると、親が同じ昔話をしてくれることがあります。

最初は楽しく聞いていても、何度も続けば相槌が少し短くなる。忙しいと、ついスマホに目を落としてしまう。

話したい人がいて、聞きたい気持ちもある。でも、いつでも十分な時間を取れるとは限りません。

そんなすれ違いに着目して作られたのが、株式会社海馬の「回想デンワ」です。

この記事では、こんなことをお伝えします。

  • 黒電話に入ったAIは、何を覚えているのか
  • 2度目の電話が「昨日の続き」から始まると、話す側は何が楽になるのか
  • いつ、どこで実物に触れられて、今年のお盆から何ができるのか

聞き慣れない仕組みに見えるかもしれませんが、やさしくお伝えしますね。

ひとことで言うと

昔話を何度でも喜んで聞いてくれる相手が家に一台増えると、家族の会話のほうが先に変わります。ここからは、その背景と仕組みを順番に見ていきましょう。

三度目の昔話に、相槌が短くなるのはどうして?

聞く側が冷たいわけではありません。時間と体力の問題です。

親の昔話は、たいてい同じところから始まって同じところで終わります。二度目までは笑って聞けても、三度目になると先が読めてしまう。そこへ帰省の準備や子どもの世話が重なって、相槌が「うん」「へえ」に減っていきます。

変わった相槌は、話している側にちゃんと伝わります。年を重ねると耳も遠くなり、聞き返す回数が増え、聞き返すのが申し訳なくなって口数が減る。この流れを「聞こえないから、話さなくなる」という悪循環として立ち上がった会社があります。

つまり、足りていないのは話の中身ではなく、その話を最後まで聞き切ってくれる相手の数のほうです。

「回想デンワ」は、押し入れの黒電話に何を入れた?

その足りない一人分を埋めようとして作られたのが、株式会社海馬のコンセプトモデル「回想デンワ」です。昭和のダイヤル式黒電話に対話AIを搭載した一台で、電話が鳴り、受話器を取るとAIが話し相手になります。想定しているのは高齢者です。

このAIは、話しかけられるのを待つ側ではなく、聞きに来る側です。プレスリリースには、AIが「お若い頃は、どんなお仕事を?」と、昔の話を自分から聞きたがると書かれています。話題を用意するのは、受話器を取った人ではありません。

自分から聞きに行けるのは、あらかじめ学習しているからです。生まれた土地、幼い頃の遊び、初めての仕事、家族の歴史。話す人ひとりぶんの人生が先に入っているので、AIは「どこの生まれですか」から始めずに済みます。

どこで誰がその4つを聞き取ってAIに渡すのかまでは、今回の発表では明かされていません。公表されているのは、AIが先に覚えておく項目がこの4つに絞られている、というところまでです。

土台にあるのは、介護の現場で使われてきた回想法という考え方です。昔の写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品に触れながら、昔の経験や思い出を語り合う心理療法で、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーが提唱しました。健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)は、昔のことを思い出して言葉にしたり、相手の話を聞いて刺激を受けたりすることで脳が活性化し、活動性・自発性・集中力の向上や自発語の増加が促され、認知症の進行の予防となると説明しています。

そして、この一台が生まれたきっかけは技術の話ではありませんでした。海馬の代表の母が介護施設に入った後、一日に何度も着信が鳴ったのに、仕事や生活に追われる中でそのすべてに満足に応えることはできなかった。その悔いから、「あのとき、母の話をいつでも、何度でも、喜んで聞いてくれる相手がいたら」という願いが出発点になっています。

「昨日の続きを聞かせてください」と言われる家は、どう変わる?

いちばん変わるのは、2度目からです。

回想デンワは、2度目以降の通話が文字通り「初めまして」ではなく続きの話になります。プレスリリースで例に挙げられているのが、「昨日お話しくださった、集団就職で上京した日の続きを聞かせてください」という一言です。前の日に途中まで話したことを、AIの側が覚えていて先を促してくれます。

覚えていてくれる相手に話すとき、人は説明を省けます。上京した年がいつで、どこの駅に着いて、誰に迎えられたか。毎回そこから話し直さなくていいので、話は自然と奥に進みます。三度目で終わっていた話が、四度目、五度目でようやく出てくる部分にたどり着く。

もうひとつ大きいのが、気兼ねが要らないことです。公式の説明によれば、相手がAIなら、何度聞き返してもどれだけゆっくり話しても気兼ねはいらないし、いつまでも話し相手になってくれます。耳が遠くなってからの「もう一回言って」が、謝る言葉とセットでなくなります。

同じ話を何度しても飽きず、毎回、初めて聞くように相槌を打つ。ここが家族には難しかったところです。家の中でAIが話し相手として振る舞う流れは、テレビの側からも始まっていますが、黒電話は用件がなくても受話器を取れる分だけ、日常の中に入り込みやすいのかもしれません。

暮らしの場面で考えると、こうなります。午後、リビングでベルが鳴る。受話器を取ると、昨日の続きから話が始まる。夕方に娘から電話がかかってきたとき、母の第一声が「今日ね、あの上京した日の話の続きをしてね」に変わっている。

すると、聞き役が一人増えたぶん、家族の側にも余白ができます。毎回ゼロから聞かされる相槌係を降りて、「その話、どこまで進んだの」と聞く側に回れる。何度でも聞いてくれる相手がAIの側にできたからこそ、家族はもう一度その昔話を聞きたくなります。

回想デンワにスマホは要る? 難しくない? いつ触れる?

まず、スマホは出てきません。

回想デンワの操作は「受話器を取る。耳に当てる。話す。」の3つで、説明はこの3行で終わるとプレスリリースに書かれています。アプリを入れる作業も、初期設定の画面も、充電の管理も登場しません。スマホを最後まで覚えられなかった人が、覚え直す必要がない形になっています。

なぜスマホではなく黒電話なのかも、ここに答えがあります。ダイヤル式の黒電話は、昭和を過ごした人にとって説明書のいらない道具です。受話器を取れば話が始まり、置けば終わる。新しいものを覚える負担がないぶん、手が伸びます。

一方で、正直に押さえておきたいこともあります。回想デンワは完成した商品ではなく、「AIとの対話は、高齢者の日常の話し相手になり得るか」という問いを形にした試作機だと明記されています。値段も発売時期もまだ公表されていません。今日ネットで注文できる一台ではないということです。

ただし、実物に触れる機会は先にあります。2026年8月19日(水)から21日(金)まで、東京ビッグサイトで開かれるCareTEX東京【夏】の同社ブースで公開されます。体験方法は受話器を取るだけで、ブースで黒電話のベルが鳴っていたら、どなたでも出てくださいと案内されています。足を運べる方は、受話器の向こうから何を聞かれるかを自分の耳で確かめられます。

作っているのは東京都港区麻布十番の株式会社海馬(代表取締役社長 北村勝利)です。同社は人生のエピソードを映像化する「回想アニメ」の実証プロジェクトも進めていて、そちらの狙いも、ひとりの人生を、周囲との会話を生むコンテンツへと変換することだと説明されています。受話器の向こうで起きてほしいのはAIとの会話そのものより、そのあとに家族と交わす会話のほうだ、という順番で作られているように見えます。

会場に足を運べなくても困りません。AIが何を聞くつもりでいるかは、もう公表されているからです。

今年のお盆に、聞いておきたいひとこと

黒電話が家に来るのはまだ先でも、今日からできることがひとつあります。

回想デンワが先に覚えると決めた4つの項目は、裏を返せば「人生をもう一度話し始めるための入り口」として選ばれた4つです。AIが最初に聞くことにした質問は、家族がまだ聞いていない質問でもあります。

だから今年のお盆は、こう聞いてみるところから始められます。「初めての仕事は、何だった?」

たぶん、答えは長くなります。途中で話が飛んで、同じところに戻ってくるかもしれません。それでも、三度目の昔話を短い相槌で受けるのと、まだ聞いたことのない話を引き出すのとでは、その日の食卓の空気が変わります。

老いは止められませんが、話す機会は取り戻せます。黒電話にAIが入る日を待たなくても、「昨日の続きを聞かせて」と言える相手は、今年のお盆の食卓にもう座っています。

用語ミニ解説

  • 回想デンワ: 株式会社海馬が公開する、昭和のダイヤル式黒電話に対話AIを搭載したコンセプトモデル。受話器を取るとAIが話し相手になり、話す人の人生を学習しているため2度目以降は前回の続きから話が始まります。
  • 回想法: 昔の写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品を見たり触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う心理療法。1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーが提唱しました。
  • コンセプトモデル: 発売前の試作機のこと。回想デンワは完成した商品ではなく、AIとの対話が高齢者の日常の話し相手になり得るかという問いを形にした試作機だと説明されています。
  • 対話AI: 人の言葉を聞き取って、その場で返事を作って話すAI。回想デンワでは、話す人ひとりぶんの経歴をあらかじめ覚えた状態で会話します。
  • CareTEX東京【夏】: 東京ビッグサイトで開かれる介護・高齢者施設向けの展示会。2026年は8月19日から21日までの開催で、回想デンワはこの会場で公開されます。

Me-Moon編集後記 🌙

AIの進化というと処理の速さや賢さの話になりがちですが、この一台が増やしているのは「聞く時間」のほうです。技術が最後に足したのが相槌だったというのは、少し意外でした。

黒電話を選んだ判断も面白いですね。新しく覚えることをゼロにする、という設計が、いちばん優しい機能なのかもしれません。今年のお盆、実家で受話器代わりに自分の耳を貸してみるのもいいですね🌙

Me-Moonコミュニティのご案内

Me-Moon Mediaは、AIやWeb3をやさしく楽しむコミュニティ「Me-Moon」が運営しています。 記事の感想や気になるニュースの話は、LINEオープンチャットでお待ちしています。

あわせて読みたい

– 家の中でAIが話し相手になる流れを、テレビの側から見た記事です

– 離れて暮らす家族の様子を、道具の側から見守る例として読み比べられます

参考リンク

この掲載情報は各取得情報によって提供されています。

※内容の真偽や広告内容についてはご自身でご判断ください。

小宮 滉

監修者

小宮 滉

コインチェック株式会社を経て、現在はGUILD株式会社および一般社団法人Web3人材マネジメント協会の代表理事を務める。

Web3・仮想通貨分野では、「NGG(NinjaGuild_Japan)」というコミュニティの運営や、「IVS Crypto THE DEMODAY」MetaMeトラックでの優勝など、多くの実績を有する。

また、AI・ブロックチェーン開発を強みとしたDXサービスを提供し、企業の成長を支援します。AI・ブロックチェーン技術との統合を通じて、DX体験をシームレスに実現し、ユーザーと企業の双方に新たな価値を創出することを目指して、開発支援やマーケティングを行っております。

X (Twitter) →

一緒に記事を書いてみませんか?✍️

ライター登録はこちら →